ブラジル・パンタナール便り・・・・
2005年 12月 18日
トランスパンタネイラ
「パンタナール縦断道路」と訳したら良いのかな?

日本の本州とほぼ同面積の氾濫平原の一部を南北に縦断しています。

f0022866_6513337.jpg北パンタナールの主要アクセス地点がカーセレス、ポコネ(筆者在住)、バロン・デ・メルガッソ。南パンタナールでは、コルンバ、ミランダ、アキダウアーナの6つの町が主要アクセスとして利用されています。トランスパンタネイラは北のポコネから南のコルンバ間の400kmを繋げようとして造られた産業道路道です。

1970年に計画され、翌年から南北両方の町から工事を始めました。工事は困難を極みましたが、道路はそれなりに形つくられていました。ところが1974年の大雨で南部建設中の道路が大洪水で流されてしまいました。その後、南部の工事は中断され予算も消えて計画自体が消滅。しかし、北部は標高が僅かばかり高いせいか浸水域も南よりは少なく、1978年には計画予定の中間地点のクイアバ川まで完成しました。現在はそこが最終地点となり「ポルト・ジョフレ」と呼ばれ、何軒かの宿泊施設とキャンプ場、ガソリンスタンドがある船着場になっています。したがって、この道は浸水大平原地帯を完全には縦断していません。

この道路、ポコネの町からポルト・ジョフレまで全長149㎞あり木造の橋が119、コンクリート製が2つかけられています。この橋のある間隔も場所によっては差がありますが、約1km間隔に橋があることになります。なぜ、これほど多くの橋をかける必要性があったのでしょう?この道路がある土地は、もともとはただの平原で雨期になると殆どの場所が浸水します。そこを一年中車が通れるようにするには盛土の必要がある。そこで完全に水が干上がる乾期に道の中心線を定め、その両側10mずつを掘削し、その砂を中心に寄せて押し固め、その上にポコネ近郊から運んできた赤土を盛り固めました。

こうして浸水平原に人口の「堤防」が完成したわけです。これらの堤防はパンタナールの生態系に多大な影響を与えました。水の流れの盛んなところには水路確保の為に橋をかけましたが、その水流の変化は著しいものがあり、水の流れを止められた所は乾燥化し、草原にはブッシュが茂り始めて森林化が進んでいます。反面、道の両側を掘り下げたことによって、その部分が天然の貯水池の役割を果たし一年中水が確保される所もあり、水生動物の住家、大型動物の餌場、水飲み場となりました。乾期になると水場を求めてこの人口の貯水池、餌場にたくさんの渡鳥やワニたちが集り、観光客の目を楽しませてくれます。

そもそも、この道路の使用目的は、放牧牛の運搬を容易にする地域産業向上という名目でした。しかし、パンタナールの放牧は、近代的な管理牧畜とは対極の野放らし半野生状態で飼育している放牧です。その為に肉付きが悪くて生産効率が非常に低い、市場に出しても良い値がつかない、運搬費用が高い、そうなると必然的に儲けが少なくなります。その上追い討ちをかけるような国産牛肉の市場価格の低下でパンタナールの放牧業は廃れてきました。道路の使用頻度は低くなると共に管理もずさんになり、この道路は一時期忘れられていました。

ところが、1980年代後半になるとブラジルに観光ブームが押し寄せ、外国人旅行者がアマゾンやパンタナールなどの大自然観光に目を向けるようになりました。牧場経営者はこの波に乗り遅れるなと母屋を増改築し簡易宿泊施設を整え「牧場ホテル」と呼ばれる観光ロッジへと早がわりしていきました。観光客1人を2泊させたら仔牛1頭の値段が儲かる。牧場経営者達はこんなおいしい話はないと次々にロッジに投資を始め放牧を完全にやめてしまうところも出てきました。

こうしてトランスパンタネイラは、北パンタナールの主要観光地になったわけです。今では道幅も広げられ、電気も65㎞地点まで通り、宿泊施設は13ヶ所あります。ロッジの部屋にはクーラーも付けられ、現地で生活している人達の生活水準も向上し、僅かながらのお金も落ちるようになり地域経済は良くなってきています。しかし、利用されている大自然の状況はどうでしょう? 年々訪問客も増えてきて、道路の使用頻度も高くなれば必然的に自然環境にも悪影響がでてきます。

路面状態が良くなり車は速度を上げ、砂埃をあげながら時速100キロ以上で走る車も出てきます。野生動物は「堤防」によって分断されたテリトリーを移動する為にこの道を渡ります。特にカピバラ、カニクイイヌ、ワニ、アナコンダ等は暴走車の格好の餌食です。

また、この道路で一番目につく問題はゴミの散乱です。この問題はブラジル全般にいえることですが、訪問者は「ゴミを捨てる」という行為に悪気を感じておらず、無意識のうちに手から離れているようです。とくにひどいのはブラジル人釣客で、ボートで釣りをしながら缶ビールやジュースを飲んで、そのままポイと川に投げる。缶だけに限らずタバコの吸殻、ビニール袋、自分に必要がなくなった「物質」はすべてその場で手元から離れます。これらの行為は車を運転していても同じことです。また釣客のゴミで最悪なのが釣糸で、この被害は野鳥に直接の影響が出ています。脚や嘴、ひどい時は身体に釣糸が巻き付き生死にかかわる問題となります。

釣客は周りの景色や動物達にはあまり興味がなく、一目散に最終地点の船着場に向かいます。昼も夜もおかまいなく車をとばすので、当然野生動物が道路に出てきても、その速度では避けきれずひいてしまいます。いちがいに動物達を殺しているのは釣客や現地に住む牧場関係者だけとは言えません。時には観光客でも同じことが言えます。さすがに目につく大きなゴミを捨てることはありませんが喫煙者などはタバコの吸殻を何気なく捨てている人を見かけます。この問題はタバコ購入時に携帯灰皿パック購入も義務づければ解決すると思いますが、肝心なのは喫煙者自身の意識改革でしょう。

この道路は、綿密な計画のもとに運営管理をすれば理想の自然観察観光のメッカになる可能性を秘めています。しかし、残念ながら現在のところ理想とは程遠い状態です。今後、政府、NGO、地域社会などがまとまり(非常に困難なことだと思います。)パンタナールを介して利用者への環境教育を徹底し、その生態系の役割と重要さを伝えていくことが必要でしょう。私もその関係者の一人として出来る限り、それらの活動に参加していきたいと思います。
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by pantanalinbrazil | 2005-12-18 21:00 | パンタナール 概 要


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